インタビュー
ARからメタバース活用の幅を広げるイオンモールの未来に向けた取り組み

イオンモール株式会社 様
- 業種 小売 / 流通
- 導入ソリューション AR [クラウドサービス]ソリューション
2021年10月、愛知県名古屋市でオープンした「イオンモール Nagoya Noritake Garden」。同店では、ARアプリケーションサービスを提供するSaaSプラットフォーム「JCV MARS」を、オープン時から導入しています。
イオンでは実店舗に加えてECサイトなどWeb事業も行っていますが、リアルとネットの社会が分断されていることを課題として感じ、新しい顧客との接点を模索していました。
そこで、仮想現実「メタバース」に着目し、その活用に向けた取り組みの第一歩としてAR(拡張現実)の導入を決めました。イオンモールの公式アプリから、現実では体験できないようなARコンテンツを提供したことで、アプリのダウンロード数が伸びただけでなく、10~30代の若い世代の来店数も増加しました。
「次のお客さまとの接点はどこになるかーー 仮想現実『メタバース』の世界が、今後イオンモールとして着手していかなければならない場所です。」
新しい顧客との接点と、新しい客層の誘導策を模索していた
イオンモール Nagoya Noritake Gardenのオープン時から、なぜARの導入をされたのか、担当の岡村氏は次のように話します。
「イオンモールは現実の世界にあるモールであり、現場が主体です。一方で、ECサイトなどインターネット活用が広がっていますが、現状では、リアルとネットが分断されている状況です。そこを克服すること、そして先駆けて新しいお客さまとの接点として確立するためにも、仮想現実『メタバース』に着目しました」(岡村氏)
メタバースとは、コンピュータやコンピュータネットワークの中に構築された現実世界とは異なる3次元の仮想空間やそのサービスのことです。現実の再現だけでなく、仮想空間ならではの体験も可能で、注目が集まっています。
メタバースに向けた取り組みは、新しい来店客獲得につながるのでは、と岡村氏は考えました。
「イオンモール Nagoya Noritake Gardenのあるエリアは、ファミリー層だけでなく、単身者も多くいます。特に大学が近くにあって20代も多いため、幅広いお客さまにご来店いただきたいと考えていました。そこで、イオンモールの主体である現実のモールを生かして、ARの活用を検討しました。ARはスマートフォンのアプリから利用する方法が主流のため、ファミリーのお子さまや、20代の若い世代との親和性が高く、ARをキッカケに来店につなげたいという思いもありました」(岡村氏)
「JCV MARS」の決め手は、1ソースマルチユースと三点計測
ARプラットフォームのなかで、「JCV MARS」を選んだ理由を、岡村氏は次のように話しました。
「大きく、2つの理由があります。1つ目は、イオンモールアプリ経由で体験できる仕組みを作れたことです。他社のプラットフォームは、ARを体験するために専用のアプリをダウンロードする必要がありました。イオンは会員数が多く、イオンモールアプリに加えてAR用のアプリをダウンロードいただくことは非常にハードルが高く、せっかくコンテンツを用意してもご利用いただけない可能性が高いのです。
『JCV MARS』は、イオンモールアプリの中に、ARを体験できる機能を追加でき、1ソースマルチユースが実現できたことが決め手となりました。2つ目は、カメラをかざすだけで地図上のポイントを特定して適切なコンテンツを配信する『三点計測』の仕組みを持っていたことです。
イオンモールのような広い施設では、フロア単位やテナント単位ではなく、通路やエスカレーターも含めて、さらに細かい位置に応じたコンテンツをご提供することが必要です。この点でも、『JCV MARS』は求めていた機能に合致しましたね」(岡村氏)
ARコンテンツをどこにいても楽しめて、それを共有してもらう仕組み作り
現在どのようなコンテンツを配信しているのか、岡村氏に伺いました。
「ファミリーのお子さまから若い世代の方々に、イオンモールアプリからARの世界に入れるような世界観を提供できるように、まずは動物や水族館、恐竜といった、写真や動画を撮って一緒に遊べるようなコンテンツを主体にご提供しています。お客さまが入り乱れる共用部、レストラン前の広場にもコンテンツを用意して、立っていてもベンチに座っていても楽しめるようにしています」(岡村氏)

一方で、岡村氏は当初不安に感じていたこともあったと言います。
「単にARをご提供して楽しんでいただくだけでは、お客さまは盛り上がらないのでは、と考えていました。自分だけ楽しむのではなく、それを共有して広げていただく、そうすることで、イオンモール Nagoya Noritake Gardenに行けば新しい体験ができると思っていただく。そんな流れを持続的に生み出すためにも、JCVに協力していただき、撮った写真や動画をSNSにアップできる仕組みを取り入れました。『体験を共有する』ことは、今後メタバースの世界のプラットフォームの1つになると考えています」(岡村氏)
ARコンテンツで、来店客やアプリDL数の増加。テナントや地域との連携強化も
AR導入後のお客さまの変化について、営業マネージャーの田中氏は次のように感じていると話しました。
「お客さまからの反応はかなりいいと感じています。導入前と比べて、ファミリーだけでなく20~30代の来店が着実に増えており、ARやデジタルを使った取り組みを、さらに進めていく必要があると感じています。また、イオンモールアプリのダウンロード数も、通常の新店オープンと比べると多くなっており、ARコンテンツの配信が強く影響している印象です」(田中氏)
ARの取り組みは、イオンモール参画企業の活用や、地域と連携強化の効果もあると岡村氏は話します。
「現在検討を進めているのは、テナントの情報発信ツールとしての活用です。例えばカメラをかざすと、イオンモールアプリ上で注目のアイテムが見られたり、AR限定クーポンを獲得できたり、コンテンツ以外の活用方法を模索しています。テナントがおススメする商品をSNSに掲載してもらえれば、これまでとは違った切り口で拡散がされて、テナントの支援や販売向上につながりますし、お客さまとテナントの接触点を増やす効果も期待できます。
また、地域活性化にも貢献できます。イオンモール Nagoya Noritake Gardenは、イオンモールとして初めてのオフィス・商業一体型の施設です。オフィスエリアの最上階には大学が入っており、学生が講義でビジネスのソリューションを日々生み出しています。しかし、それを試す場所がないというのが大学の課題でした。そこでイオンモールを活用してビジネスの発展性などを検証していただくという提携を結び、産学連携で進めています。 商業・オフィス・大学の三位一体での取り組みは、イオンモールとして今後目指す方向性の1つです」(岡村氏)
常に新しいことをやっているというイメージを
「JCV MARS」を起点とした今後の取り組みについて、岡村氏は次のように考えていると語ります。
「現実では準備に時間がかかるものをすぐに可視化できるARの利点を生かして、季節に合わせたコンテンツをお客さまにご提供していく。そして、AR空間をプラットフォームとして整えて、企業がすぐに参画できるようにする。この2つを実現して、お客さまにとってもイオンモールに来れば常に新しいことをやっているというイメージを作っていきたいと考えています」(岡村氏)
テクノロジーの発展と活用への期待についても伺いました。
「約10年前、一度ARの活用を検討していたことがありましたが、当時の技術では商業的な利用は難しく断念しました。しかしスマートフォンの普及によって、比較できないほど実現可能なことが増えました。今後は、イオンモール Nagoya Noritake Gardenをモデルケースとして、全国のイオンモールでもARを展開して、イオンモール全体のDX戦略の一巻になれたらいいと思っています」(岡村氏)
現実とネットを融合したメタバースの取り組みが、今後どのように活用の幅が広がっていくのか注目されます。
SaaSプラットフォーム「JCV MARS」
3次元データの空間認識技術で屋外・屋内での位置特定を行い、さまざまなARアプリケーションサービスを提供するSaaSプラットフォームです。JCVが持つ業界トップクラスの画像認識技術を活用して、屋外・屋内での位置特定を実現し、地図データの特徴点の照合のみで、アプリケーションを通してユーザへのサービス提供を遅延なく⾼速に行います。さらに、サーバ側に取り込む地図上の特定のポイントやARコンテンツを直感的なGUIで簡単に管理することが可能です。事業者もユーザーもさまざまなARアプリケーションをストレスフリーで簡単に利用ができます。